少子高齢化がますます加速する今、高齢者が住み慣れた地域で自分らしく暮らせる社会をいかに作るかが課題となっています。
地域行政はそれらの解決に向けて「地域包括ケアシステム」の構築を目指しており、運動能力の回復や維持をサポートする理学療法士も、そのシステムを支える柱の一つとして働きを期待される存在です。
今回は、地域包括ケアシステムとは何か、その中で理学療法士が果たす役割などについて解説します。
地域包括ケアシステムとは、高齢者の尊厳を守り、自立を支援するために地域が一体となって支える仕組みのことです。
多くの高齢者が持つ「病院や施設ではなく、最期まで住み慣れた場所で暮らしたい」という希望を叶えるために、住まい・医療・介護・介護予防・生活支援を一体的に提供できる体制を目指しています。
日本は団塊の世代が後期高齢者となる2025年を皮切りに、高齢者が人口の30%を超える超高齢化社会を迎えるといわれています。
医療や介護の需要が増す一方で設備や人員は不足し、十分な医療が受けられない時代が来ると懸念されています。
それを防ぐために、地域の実状に応じて生活支援や介護医療などの各分野が連携し支え合う地域包括ケアシステムを構築しておくことが重要なのです。
地域包括ケアシステムは、住まい・医療・介護・介護予防・生活支援の5つの要素がサポートし合う仕組みになっています。
各分野の役割をくわしく見ていきましょう。
住まいに関する支援は自治体や地域の住宅管理組合などが主体となって行います。
要介護となっても自分らしく暮らせる場所として住み慣れた自宅のリフォームやサービス付き高齢者向け住宅などをニーズに応じて紹介・提案します。
また、賃貸住宅入居時の保証人を確保するなど、住まいに関する手続き関係の支援も行います。
医療分野については、入院は急性期病院、回復は回復期リハビリ病院、日常医療はかかりつけ医や地域の連携病院といった形で役割分担を行い、スムーズな医療提供を目指します。
また、救急病院で急性期治療を終えたけれど、自宅や施設に戻るのはまだ不安があるという場合の受け皿となる「地域包括ケア病棟」も増えています。
リハビリテーションや在宅復帰支援などを丁寧に行うことで、その後の事故やケガを防止する役目を果たす施設です。
地域包括ケアシステムの介護サービスは「在宅系サービス」と「施設・居住系サービス」に分けられます。
在宅系サービスは訪問介護や訪問看護などのほか、介護老人保健施設などへの通所介護やショートステイなど。
施設・居住系サービスは介護老人福祉施設、介護老人保健施設への入所などがあります。
いざ要介護状態となったときに、すぐ施設に通所または入所できるような体制を整えます。
介護予防は地域包括ケアシステムの土台のひとつです。
介護状態とならないために教室やサロンなどの参加を勧める、買い物や散歩など日常生活の維持を促すといった高齢者の生活の質を守る活動を旨とします。
自治体やボランティア、NPO法人などによる介護予防訪問やデイサービス、医師と薬剤師による療養指導など様々な取り組みがあります。
生活支援は介護予防と並ぶ地域包括ケアシステムの土台です。
介護予防と同様に自治体やボランティアが中心となって、高齢者が通常の生活を送れるように、人と関わり合えるサロンの開催や買い物支援、配食、見守り、安否確認などのサービスを行います。
専門性を必要としない分野なので地域住民の参加も期待されています。
地域包括ケアシステムにおけるリハビリの役割は、入院後の社会復帰サポートです。
高齢者が病気やケガなどで入院を余儀なくされた場合、日常に戻るためには身体の筋力を元に戻す訓練が必要になります。
まずは「立つ」「歩く」などの機能回復訓練から、食事や排せつなどの基本動作、掃除や洗濯などの日常生活動作、そして外出や買い物などの社会的生活動作を段階的にクリアできるように動作訓練を行います。
さらに、病後は気持ちが落ち込みやすいため、身体能力面のサポートに加えて生活に戻るための動機づけ、生活環境の調整、最終的に地域の中で生きがいや役割を持って生活できるような居場所と社会的役割づくりまで、リハビリとしてサポートします。
例えば、地域包括ケアシステムでリハビリを担当する理学療法士は、ライフステージに合わせた継続的な訓練や運動習慣を提供・提案します。
さらに、運動機能や動作能力が低下しても自宅で暮らせるように家屋評価や住宅改修、環境調整や福祉用具のアドバイスをするケースも珍しくありません。
急性期、回復期、生活期、そして地域参加まで一貫したサポート体制を整え、高齢者の身体機能の回復だけでなく、活動性の回復・維持、社会参加の支援をするのがリハビリなのです。
一口に理学療法士といっても、所属する医療現場によって役割やリハビリ内容は異なります。
ここでは地域包括ケアシステムの3つの医療フェーズに分けて解説します。
高齢者が病気やケガなどで入院となった際、理学療法士は疾患の治療を中心としながら、呼吸・血流の状態などを管理しつつ、離床から立位・歩行、基本動作の訓練を主に行います。
医師と連携を取りながら寝たきり予防のリハビリをしていきます。
疾患の急性期治療がやや落ち着くと、回復期病院に転院してリハビリを継続します。
ここでは発症・受傷前の動作能力の再獲得をして自宅にもどれる状態を目指します。
必要に応じて家屋評価などを提案して住まいの環境調整や福祉用具のアドバイスなども行います。
維持期病院とは退院後に通院リハビリを行う施設のこと。
地域の病院やリハビリ施設・介護施設などが主な場所です。
維持期を担当する理学療法士は、急性期病院や回復期病院で獲得した動作能力や活動性の維持を中心にしつつ、生活の質(QOL)の向上を目指して一人ひとりの生活スタイルに合わせたリハビリ内容を提案します。
理学療法士は介護現場でも活躍します。
地域ケアシステムの介護現場での役割についてみていきましょう。
有料老人ホームや介護老人保険施設などに入所している人に、病気やケガが原因で低下した機能の回復や、生活に必要な基本動作や応用動作のさらなる獲得を目指してリハビリを行います。
通所介護となる要介護や要支援認定を受けた方が通うデイサービスやデイケアなどでは、ほとんどの方が自宅で生活しているので、それぞれの能力にあった負荷量の運動やリハビリ内容を提案します。
理学療法士が利用者の自宅や居宅施設を訪問し、実際の生活環境にて活動性の維持・向上ができるように、機能訓練や動作練習、環境設定や福祉用具のアドバイス、自立支援などを行います。
訓練に加えて、介護する家族へのアドバイスや相談にも対応します。
これから迎える超高齢化社会への対策として、高齢者の自立した生活を支える地域包括ケアシステムは必要不可欠なものです。
住まい・医療・介護・介護予防・生活支援の5要素が連携し合い作り上げるものですが、理学療法士はそのすべてに関わる重要な役割を担っています。
医療の急性期には早期に離床できるように促し、回復期では動作能力の回復をサポートし、退院後の維持期や介護では能力の維持・向上を目指すリハビリを行います。
また、身体機能の回復サポートだけでなく、安全に長く暮らせる住居環境の提案や介護する家族へのアドバイスなど様々な面で高齢者の生活の質向上に努めています。