近年、医療サービスの提供方法は大きく変わりつつあり、オンライン診療や遠隔リハビリが徐々に実用化され、どこに住んでいても適切な医療が受けられる時代がすぐそこまできています。
2021年11月現在、遠隔リハビリに対応できる施設数は約170施設といわれており、今後も参入する施設は増加していくでしょう。
本記事では、今後ますますニーズが高まるといわれる遠隔リハビリについて、メリットや課題を解説するとともに、遠隔リハビリを実現するテクノロジーについても紹介します。
遠隔リハビリを取り入れた場合、療法士やリハビリ施設にとってどのようなメリットがあるのでしょうか。
ここでは代表的なメリットを5つ解説します。
遠隔リハビリにより、どこでもリハビリを提供できるメリットがあります。
リハビリを必要としていても、時間的な制限や交通事情、付き添いなどのマンパワー不足や患者自身の体力の問題などで、患者がリハビリ施設まで通えないケースは珍しくありません。
訪問リハビリの対応枠や対応可能地域も限られているといった場合もありますが、遠隔リハビリであれば提供できます。
また、いわゆる「医療過疎地域」である遠方や離島の患者にも対応できるようになります。
仕事や家庭の事情、その他の理由でスケジュールが組めず、リハビリを長期にお休みしたり自己判断で中断してしまったりする患者を減らすことが可能です。
定期的・継続的に介入することで、スタッフ側も症状の変化や機能の改善をキャッチしやすく、リハビリの効果を把握しやすくなります。
移動時間などの削減により、療法士不足の解消も期待できます。
今後の少子高齢化社会に向けて、特に介護分野での療法士の不足が危惧されています。
遠隔リハビリにより効率的なサービス提供が実現すると、限られた時間の中で、1人の療法士が対応できる患者数を増やすことも可能です。
遠隔リハビリにより在宅でもリハビリを受けられるようになると、「リハビリ目的での入院」を減らすことができます。
必要な患者のみ入院させることで病床に余裕がうまれ、受け入れ可能な患者数を増やせるようになります。
患者と直接接触する機会が減るので、感染症対策としても非常に有効でしょう。
リハビリ中の接触や飛沫感染だけでなく、往来での交通機関の使用や他の患者との接触もなくなるので、菌やウイルスに感染するリスクを大幅に減らすことができると期待されています。
遠隔リハビリを実現するテクノロジーとして、実際にどのようなものがあるのかみていきましょう。
VRとは「Virtual Reality(バーチャル・リアリティ)」の略で、日本語では「仮想現実」とも呼ばれています。
患者はVRヘッドセットを着用し、バーチャル診療室にアクセスすることで、自宅にいながら実際のリハビリ施設にいるような心持ちでリハビリに取り組めるでしょう。
また、エクササイズ中に普段見慣れた景色や観光地の風景をVR空間に設定して、リラックスした気分や美しい風景を楽しみながら訓練を行うことも可能です。
ほかにも、リハビリプログラムそのものにVRを組み込み、ゲーム感覚で楽しみながら課題に取り組んでもらうこともできます。
一方、療法士は患者が見ている映像を手元のタブレットなどで確認しながら、適切な負荷量や運動方向などを指示・指導することが可能です。
リハビリに欠かせない「触れる」という行動については、触覚を遠隔でフィードバックできる人工皮膚の開発・実用化が期待されています。
センサーが皮膚の変形量を継続的に測定し、人工皮膚上に圧力や振動を再現することで触覚的な評価やフィードバックを行うといった遠隔リハビリができる日も近いかもしれません。
リハビリで使用されるロボットは生体電位信号を感知し、様々なセンサーと連動して四肢や体幹の動きを補助します。
VR技術と連動してトレーニングを行うことも可能です。
さらに運動機能面だけではなく、言語訓練の相手としてもロボットは大きな役割を担っています。
遠隔でリハビリに取り組む患者の運動や動作の動画をもとに、AI(人工知能)が患者の骨格情報を検出し、姿勢や動作に問題点や改善点がないか分析を行います。
AIの分析結果をもとに、セラピストがリアルタイムで口頭指導したり、新たに必要なリハビリプログラムを立案したりすることで、更なる機能改善や動作能力改善が目指せるでしょう。
これまでに述べたVR映像の共有や人工皮膚のフィードバック、AIによる動作分析などについて、リアルタイムで円滑にやり取りを行うためには、高速・大容量・低遅延の5G通信が不可欠です。
遠隔でも遅延なく、リハビリに必要なデータの通信を行えるよう、5G通信のさらなる普及が待たれます。
多くの可能性を持った遠隔リハビリですが、課題もあります。ここでは代表的な2つの課題について紹介します。
リハビリでは直接患者に触れて筋肉や関節の動かし方を見る、ハンドリングするといったアプローチが多くあり、遠隔でも身体的アプローチを可能にする技術がなければ難しい場面がどうしても出てきます。
また、専用機器を用いた検査や訓練は、限られた施設でなければ実施できないという課題もあります。
遠隔リハビリを実施するにあたり、患者側にも通信機器とインターネット環境は欠かせないうえに、ある程度操作できることが前提になります。
パソコンやスマホなどのIT機器になじみのない患者だと設定や使い方がわからず、対応が困難になる可能性があります。
通院困難、訪問リハビリに対応できないといった患者にも最新技術を用いてリハビリを提供できる、遠隔リハビリが注目を浴びています。
現段階では遠隔での実施が難しい訓練や検査がある患者にも、IT機器をある程度使いこなす知識が必要といった課題があり、完全な普及までは時間がかかるかもしれません。
しかし、VRやAI、ロボットや人工皮膚などの研究開発により遠隔リハビリが一般的になっていけば、感染症対策はもちろん、療法士不足や病床不足も解消され、どのような患者にも継続的なリハビリを提供することが可能になるでしょう。